ヨバナシ —女たちの秘密会議
コラム

= COLUMN =

亡くなった父との対話、お墓参りで起きたこと

ヨバナシ編集部 読了 約5分

父が亡くなって5年。毎年お盆と春のお彼岸に、わたしは家族でお墓参りに行きます。去年の春、わたしはひとりでお墓参りに行きました。そこで、父に話しかけて、不思議な経験をしました。65歳のわたしが、亡くなった父との『対話』で気づいた、3つのことを書きます。

父が亡くなって、5年になりました。

毎年、お盆と春のお彼岸に、わたしは、夫と一緒に、お墓参りに行きます。

ところが、去年の春、わたしは、初めて、ひとりで、お墓参りに行きました。

夫が、その日、急な用事で行けなくなり、わたしひとりで、車で1時間のお墓へ、向かったのです。

そして、誰もいないお墓の前で、わたしは、父に、話しかけてみました。

そこで、不思議な経験をしました。

65歳のいま、わたしが、お墓参りで気づいた、3つのことを、書きたいと思います。

ひとりのお墓参りは、初めてだった

夫と一緒のお墓参りは、いつも、こんな感じでした。

ふたりでお墓を、軽くお掃除して。 お花とお線香を、立てて。 夫が短く「お父さん、また来ました」と、声をかけて。 ふたりで、手を合わせて、5分くらい目をつぶって。 それで、お参りが終わる。

これが、いつもの、お墓参りでした。

ところが、ひとりで行くと、ぜんぜん違いました。

時間が、ゆっくり、流れたのです。

お墓を、いつもより、丁寧に掃除しました。 お花も、いつもより、ゆっくり選んで、お供えしました。 お線香も、6本立てました(いつもの3本ではなく)。 そして、お墓の前のベンチに、わたしは、ひとりで座りました。

「ひとりの時間」が、たぶん、20分くらい、ありました。

その20分のあいだに、わたしは、父に、話しかけることにしたのです。

父に、話しかけた言葉

最初は、声に出さずに、心の中で、話しかけました。

「お父さん、こんにちは」 「お父さん、5年経ったよ」 「お父さん、お母さん、まだ元気だよ」

ですが、しばらくすると、わたしは、声に出して、話していました。

誰もいない、お墓の前。 わたしと、お墓と、桜の木と、青い空。

それだけです。

「お父さん」

声に出すと、その「お父さん」が、たしかに、お墓の中の父に届いている、ような感覚が、ありました。

わたしは、こう続けました。

「最近、お母さんがね、ちょっと、忘れっぽくなってきたの」 「お父さんが亡くなった後、お母さん、ずっと頑張ってきたんだけど、もう88歳でしょ」 「お父さんも、上から、見てるよね」

声に出して話していると、自然と、わたしの中で、整理されていく感覚がありました。

母のこと。 わたし自身の老後のこと。 夫のこと。 息子と、その家族のこと。

ぜんぶ、ひとつずつ、父に話して、報告しました。

父からの「返事」が、聞こえた気がした

20分の半ばで、わたしは、ふっと、こう感じました。

「お父さんは、これを、ちゃんと聞いてくれてる」

これは、超常現象とか、霊感とか、そういうものでは、ありません。

ただ、わたしの中で、「話したことが、ちゃんと、届いた」という、納得感が、はっきり、あったのです。

そして、その納得感の中で、ふと、父の声が、頭の中に、響きました。

「うん、うん。お前、よくやってる」

これは、実際に、声が聞こえたわけでは、ありません。 わたしの頭の中で、父の声で、わたしに返事をしてくれた、という感覚です。

父が生前、よくわたしに言ってくれた言葉でした。

「うん、うん。お前、よくやってる」

その声が、5年ぶりに、わたしの頭の中で、響いたのです。

涙が、ぽろぽろ、出ました。

お墓の前で、わたしは、声を出さずに、しばらく、泣きました。

気づいたこと① 父との関係は、亡くなったあとも続く

そのお墓参りで、わたしが、いちばん深く気づいたのは、こうです。

父との関係は、父が亡くなって、終わったわけでは、ありませんでした。

亡くなったあとも、わたしは、父に話しかけられる。 亡くなったあとも、父は、わたしに返事をしてくれる(わたしの頭の中で)。

形は変わったけれど、関係そのものは、続いているのです。

これは、生前は、わたしには、想像できなかったことでした。

「亡くなったら、もう、終わり」と思っていた、わたしの考えが、ぐるっと、変わりました。

気づいたこと② 報告するだけで、自分が整う

ふたつめの気づきは、こうです。

父に、近況を「報告する」ことが、わたし自身の中で、整理になっていました。

頭の中で、ぐるぐる、考えていたことを、声に出して、父に話す。

それだけで、母のこと、夫のこと、息子のこと、わたし自身の老後のこと、ぜんぶが、整理されたのです。

これは、誰かに相談するのとは、少し違います。 相談すると、相手の意見や、アドバイスが、返ってきます。 ですが、お墓の父は、何も言いません(わたしの頭の中で、たまに「うん、うん」と言ってくれるだけ)。

「聞いてもらう」「報告する」だけで、整理ができる。 これは、わたしには、大きな発見でした。

気づいたこと③ ひとりの時間が、必要だった

3つめの気づきは、こうです。

夫と一緒のお墓参りでは、こんな深い時間は、起こりませんでした。

夫がいると、わたしは、お墓の前で、夫を気にしてしまうのです。 「夫は、何を考えているかな」 「夫が、退屈していないかな」 「夫が、長くなりすぎたと、思わないかな」

夫がいるだけで、わたしの意識が、夫に半分、向いてしまうのです。

ひとりだと、お墓の父にだけ、100%集中できました。

それが、20分の深い時間を、可能にしたのです。

それから1年、わたしのお墓参りの変え方

去年の春以来、わたしは、お墓参りのスタイルを、変えました。

  • お盆と秋のお彼岸は、これまで通り、夫と一緒に
  • 春のお彼岸と、命日(11月)は、ひとりで

つまり、年4回のうち、2回は、ひとりで、お墓参りに行くようにしたのです。

夫にも、こう話しました。

「あなた、わたしね、ひとりで、お墓参りに行く時間を、年に2回、持ちたい」

夫は、「いいよ。お父さんと、ふたりで話してこい」と言ってくれました。

35年連れ添った夫が、わたしの「父との対話の時間」を、理解してくれました。

これは、わたしには、本当に、ありがたいことでした。

同じ年代の方へ

もし、いま、亡くなったご両親、ご主人、ご友人、お子さん、誰かを失った方がいらっしゃるなら、申し上げたいことが、ひとつあります。

ひとりで、その方のお墓に、行ってみてください。

そして、声に出して、最近のことを、報告してみてください。

最初は、恥ずかしいかもしれません。

ですが、続けていると、不思議と、その方が、聞いてくれている感覚が、出てきます。 そして、その方が、わたしの頭の中で、生前の言葉で、返事をしてくれる、ような気がします。

これは、超常現象では、ありません。 わたしたちの中に、その方のことが、しっかり、残っているから、起こることだと、わたしは、思っています。

亡くなった人との関係は、亡くなって、終わるわけでは、ありません。

形を変えて、わたしたちの中で、続いていきます。

そして、そのつながりを、定期的に確かめることが、わたしたち自身の、これからの暮らしを、温めてくれます。

去年の春のひとりのお墓参りで、わたしは、それを、初めて、知りました。

来月、わたしは、また、ひとりで、お墓参りに行きます。

父に、最近のことを、報告してきます。

そして、たぶん、また、頭の中で、父の「うん、うん」を、聞くと、思います。

それが、わたしの、いまの、いちばんの心の支えに、なっています。

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