介護をめぐる兄夫婦との合意、書面に残した話と書き方
85歳の母の介護をめぐって、兄夫婦とわたしで合意事項をA4の書面に残しました。介護費用の分担、介護休業の取り扱い、母の意思の確認方法、施設入居の判断基準。62歳の妹が、ケアマネジャーさんの助言のもと作った書面の中身と、書面化したことで防げた揉めごとを、お伝えします。
85歳の母が要介護2になったとき、わたしと兄夫婦で、いちばん最初にやったのは、「合意事項」をA4の書面に残すことでした。
これは、わたし自身の発案ではなく、母のケアマネジャーさんが、強く勧めてくれたことでした。
「ご家族で介護を始める前に、口約束ではなく、文書で合意を残しておくと、後で必ず助かりますよ」
ケアマネさんの、この言葉を信じて、わたしと兄夫婦は、半日かけて、A4の書面を作りました。
別記事(父の介護で兄と仲違いした、解けるまでの2年)に書いた、わたしの兄との苦い経験が、母の介護では絶対に繰り返したくなかった、というのも、大きな理由でした。
この記事では、書面化のメリット、実際の書面の中身、書き方の手順を、お伝えします。
重要なお断り:この記事は、わたしの家族のケースです。介護をめぐる兄弟間の取り決めは、ご家庭ごとに大きく違います。実際の進め方は、ケアマネジャーさんや、必要に応じて弁護士・行政書士などの専門家にご相談ください。
書面化のメリット(2年使ってみて)
最初に、書面化のメリットを、2年使ってみた結果から、お伝えします。
ひとつめ、「言った」「言わない」のトラブルが、ゼロになった。
口約束だと、半年後、1年後に「あれ、そう決めたっけ」「いや、違ったよ」となります。 書面があれば、いつでも、見返して、確認できます。
ふたつめ、新しい問題が出たとき、判断の基準になる。
母の状態は、半年ごとに変わります。 新しい問題(夜中の徘徊、転倒など)が出るたびに、「最初に決めた合意の延長で、どう対処するか」を、書面ベースで話し合えます。
みっつめ、配偶者(義姉)との関係が、楽になる。
兄ひとりではなく、兄の妻(義姉)も、介護の判断に関わります。 書面があると、義姉も「最初の合意」を理解した上で動けます。義姉とのトラブルが、ぐっと減りました。
書面の中身(8項目)
実際の書面の中身を、整理してお伝えします。
項目1: 母の状態と、現在のケアプラン
- 母の年齢、要介護度、診断病名
- かかりつけ医、ケアマネジャーの連絡先
- 現在利用している介護サービス(訪問介護、デイサービス、ショートステイ)
- 月の介護保険利用額(自己負担分の概算)
項目2: 介護費用の分担
- 介護保険の自己負担分: 母の年金から
- 母の年金で足りない分: わたしと兄で折半
- 大きな出費(施設入居一時金など): 別途相談
- 領収書は、わたしが保管、年1回兄夫婦に共有
項目3: 介護の物理的な分担
- 平日のメインの動き(訪問・付き添い): わたし
- 月1回の通院付き添い: 兄(交代制)
- 緊急時(夜間・救急): わたしがまず駆けつける
- 兄夫婦の負担が増えるケース: 別途相談
項目4: 連絡網と情報共有
- 緊急時の最初の連絡先: わたしの携帯
- 第2連絡先: 兄夫婦のLINEグループ
- ケアマネさんからの連絡: わたしが受け取り、24時間以内に兄夫婦と共有
- 月1回、わたしから兄夫婦に書面で「今月の母の状態」を報告
項目5: 母の意思の確認方法
- 大きな判断(施設入居、医療判断など)は、必ず母本人の意思を確認
- 母が認知症で判断が難しくなったら、母が以前に書いたエンディングノートを参照
- 兄妹だけで母の意思を勝手に決めない
項目6: 施設入居の判断基準
- 母が「家にいたい」と言っているうちは、自宅介護を優先
- 自宅介護が物理的に無理になった時(寝たきりなど)、施設を検討
- 施設入居の最終判断は、ケアマネさんと医師の意見を聞いた上で、わたしと兄で
- 施設の選定は、わたしが3〜5箇所見学、兄夫婦と一緒に最終決定
項目7: 介護がわたしの体調に影響したとき
- わたしの体調が崩れたら、すぐに兄に伝える
- ショートステイで母を1週間預けて、わたしが休む
- 兄夫婦が一時的にメインの介護を引き継ぐ
- これが慢性化したら、施設入居を再検討
項目8: 相続への影響(将来の参考)
- わたしの介護負担が大きいことを、母の遺言に「寄与分」として明記してもらうよう、母に依頼
- 介護費用の領収書は、相続時の参考資料として保管
- 兄妹間で、これを「公平でない」と感じる場合は、相続時に再協議
書面の書き方(A4で1枚〜2枚)
書面は、特別なフォーマットは、要りません。 わたしたちは、A4の紙2枚に、上記8項目を、手書きで書きました。
タイトルは「母の介護に関する家族合意書」。
最後に、3人(わたし、兄、義姉)の署名と日付を、それぞれ書きました。
弁護士に作ってもらった、法的拘束力のあるものではありません。 あくまで「家族の話し合いの記録」です。
ですが、これがあるだけで、家族の動きが、ぜんぜん変わります。
書面化に、半日かけた理由
書面化のための話し合いに、わたしたち3人(わたし、兄、義姉)は、半日(午後1時から夕方6時)を、使いました。
最初の30分で、項目を決め、残り4時間半で、ひとつずつ、合意を取っていきました。
時間がかかったのは、項目2(費用)と、項目7(わたしの体調)でした。
費用は、「折半」と決めるのに、1時間近くかかりました。 兄夫婦は「物理的な介護をしてくれているお前の負担を、お金で多少埋めたい」と言ってくれましたが、わたしは「お金で解決すると、こちらの気持ちが楽になりすぎて、後で問題が出る気がする」と感じていました。
最終的に「折半、ただしわたしの体調が崩れたら、兄が物理的な負担を増やす」というかたちに、落ち着きました。
項目7も、わたしが「自分の体調がいつ崩れるか分からない」と話し、兄夫婦が「いつでも預かるから、すぐ言って」と応じてくれました。
半日かけた価値は、本当に、ありました。
書面化の前に、準備したこと
書面化の話し合いの前に、わたしが準備したことを、3つお伝えします。
ひとつめ、ケアマネさんに「書面化したいけど、何を入れるべき?」と相談。 ケアマネさんが、項目案を、書面で渡してくれました。 これが、最終的な8項目の土台に、なりました。
ふたつめ、母の状態を、最新の数字で整理。 要介護度、年金額、介護保険の自己負担、利用しているサービスの一覧。 これを事前に紙にまとめて、話し合いの席に出しました。
みっつめ、兄夫婦に「事前に項目案を読んでおいて」とメール。 当日いきなり話し合いだと、兄夫婦も判断できません。 1週間前に、項目案を兄夫婦にメールで送って、考えてもらいました。
この事前準備で、当日の話し合いは、ずいぶん、スムーズに進みました。
半年に1回、書面を見直す
書面は、作って終わりでは、ありません。
わたしたちは、半年に1回、お盆と年末に、書面の見直しを、3人でしています。
見直しの内容は、こうです。
- 母の状態の変化を、新しい数字に更新
- 介護費用の自己負担額の変化を更新
- 新しく出てきた問題への対応を追記
- 物理的な介護の分担の見直し
これも、ケアマネさんが「半年に1回の見直しを、必ず」と勧めてくれました。
母の状態は、半年で変わります。 書面も、それに合わせて、変える必要があるのです。
やってよかったこと、もうひとつ
書面化と並行して、もうひとつ、やってよかったことがあります。
それは、母が元気な時期に、母自身に「介護に関する希望書」を書いてもらったことです。
A4の便箋1枚に、母が、自分の言葉で、こう書きました。
- 自宅で過ごしたい
- 施設なら、近所の〇〇会の施設がいい
- 延命治療は、希望しない
- 葬儀は、家族だけで、小さくしたい
- お墓は、お父さんと同じ場所に
これがあるおかげで、わたしと兄は、いつでも、母の意思を確認できます。
母が認知症になっても、母が書いてくれた紙が、母の声を、ずっと残してくれます。
介護で揉めたくない方へ
もし、いま、親の介護がこれから始まる方が、兄弟との関係を心配しているなら、申し上げたいことがあります。
書面化を、必ず、最初にやってください。
口約束で始めると、半年で必ず、揉めごとが出ます。 わたしも、5年前の父の介護で、それを経験しました(別記事)。
書面化は、難しくありません。 ケアマネさんに「項目案をください」と頼めば、ほとんどの方が、雛形を出してくれます。 あとは、家族で、半日かけて、話し合うだけです。
そして、半年に1回、見直す。
これだけで、兄弟との関係を、介護のあいだも、ちゃんと保てます。
少なくとも、わたしと兄の関係は、2年間、書面のおかげで、安定しています。
これは、書面化前のわたしには、想像できなかったことでした。
なお、繰り返しになりますが、介護をめぐる家族の話し合いは、ご家庭ごとに事情が違います。具体的なやり方は、ケアマネジャーさんや、必要に応じて弁護士・行政書士などの専門家にご相談ください。
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