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コラム

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亡くなった夫の手紙、わたしが20年見つけられなかった理由

ヨバナシ編集部 読了 約5分

20年前、夫が68歳で亡くなった後、わたしは夫の遺品整理を、半年で進めました。ある書斎の引き出しの奥に、夫がわたしに宛てた、未送信の手紙が、1通入っていたことを、わたしは20年見つけられませんでした。88歳のわたしが、ようやくその手紙を見つけて、夫の本当の気持ちを、知った話を、お伝えします。

20年前、夫が、68歳で、亡くなりました。

心臓の病気でした。

わたしは、当時、68歳。 息子は、結婚して、独立していました。

夫が亡くなった後、わたしは、半年で、夫の遺品整理を、進めました。

別記事(夫の遺品整理を半年で進めた、わたしの3つのコツ)に、当時の話を、書きました。

書斎の本、夫の衣類、ガレージの工具、夫の仕事関係の段ボール。

ぜんぶ、整理しました。

ですが、20年経って、わたしが88歳になった、ある秋の日。

書斎の、古い机の引き出しの、いちばん奥から、夫がわたしに宛てた、未送信の手紙が、1通、出てきました。

20年、わたしは、その手紙を、見つけられなかった。

なぜ、見つけられなかったのか。

そして、20年経って、ようやく、夫の本当の気持ちを、知ったときの話を、書きたいと思います。

88歳の秋、机の整理

去年(88歳)の秋、わたしは、家の整理を、自分の終活として、始めました。

家のなかの、わたしの物を、息子に、迷惑をかけずに、整理しておきたい。

そう、思って、半年かけて、家のなかを、整理しました。

最後に、手をつけたのが、夫の書斎の、古い机でした。

夫の書斎は、夫が亡くなった後、わたしの、本やノートを、置く部屋に、変わっていました。 ですが、夫の使っていた、大きな木製の机は、20年、そのまま、置いてあったのです。

この机を、息子の家に、引き取ってもらうことに、なりました。

机を、運び出す前に、わたしは、引き出しを、ぜんぶ、開けて、中身を、確認しました。

そして、いちばん下の、深い引き出しの、奥の奥から、1通の手紙が、出てきました。

封筒に、わたしの名前(由紀子)が、夫の字で、書かれていました。

切手は、貼られていません。

未送信の、手紙でした。

なぜ20年見つけられなかったか

20年、わたしは、この手紙を、見つけられませんでした。

理由は、ふたつ、あります。

ひとつめ、引き出しの「いちばん下」を、開けなかったから。

夫の机の、いちばん下の引き出しは、夫が、大きな書類を、保管していた場所でした。

夫が亡くなった後、わたしが、遺品整理のとき、その引き出しを、開けて、中の書類を、ぜんぶ、確認した、つもり、でした。

ですが、引き出しの「奥の奥」、書類の、いちばん下に、薄い茶色の封筒が、1通、ぴったり、貼り付くように、入っていたのです。

20年前のわたしは、目が悪く、引き出しの暗い奥まで、見えませんでした。 そして、手を、入れて、書類を、引き出しましたが、いちばん下の、薄い封筒を、取り損なっていました。

ふたつめ、わたしが「夫が、わたしに手紙を、書くわけがない」と、思い込んでいたから。

夫は、無口で、感情を表に出さない、典型的な、昭和の男性でした。 40年連れ添ったあいだ、夫が、わたしに、手紙を、書いてくれたことは、一度も、ありませんでした。

ですから、わたしが、夫の遺品を整理したとき、「手紙」を、探していなかったのです。

「夫が、わたしに手紙を、残しているはずがない」と、頭の中で、決めつけていました。

その「決めつけ」が、20年、引き出しの奥の手紙を、わたしに、見つけさせなかった、理由でした。

手紙の中身

その手紙を、ふるえる手で、開けたのは、去年の秋の、夜のことでした。

机の前の、椅子に、座って、紙を、ゆっくり、広げました。

夫の字で、A4の紙、1枚。

書かれていた、内容は、こうでした。

「由紀子へ。

俺は、お前に、ちゃんと、お礼を、言えたことが、ないと、ずっと、思っていた。

40年、お前は、本当に、よくしてくれた。

息子を、育ててくれた。 俺の母(義母)を、看取ってくれた。 俺が、退職してから、毎日、ご飯を作ってくれた。 俺が、たまに、機嫌が悪くても、文句を、言わずに、隣にいてくれた。

俺は、本当に、運がよかった。

お前と、結婚できて、よかった。

俺は、お前に、感謝の気持ちを、いつか、ちゃんと、伝えたいと、思っていた。

でも、口で、言うのは、恥ずかしくて、できなかった。

だから、こうやって、手紙に、書いてみた。

この手紙を、いつ、お前に渡すかは、まだ、決めていない。

たぶん、俺の誕生日か、お前の誕生日か、結婚記念日に、渡そう、と思っている。

それまで、机の引き出しの、いちばん奥に、しまっておく。

お前に、これを読んでもらうのは、たぶん、これから5年か、10年、先のことだ。

それまで、俺は、お前と、いっしょに、ゆっくり、過ごしたい。

ありがとう、由紀子。

これからも、ふたりで、生きていこう。

平成17年、春。 良一」

平成17年、春。

夫が、亡くなる、2年前でした。

わたしが、20年知らなかった、夫の気持ち

手紙を読んで、わたしは、しばらく、椅子から、動けませんでした。

20年、わたしは、夫の本当の気持ちを、知らないまま、生きていました。

「夫は、わたしに、感謝なんて、たぶん、していない」と、わたしは、ずっと、思っていました。

夫は、無口で、感情を、表に出さない人でした。 わたしが、何かをしても、「ああ、そう」「うん」「悪くない」、それくらいの、返事しかなかった。

ですから、わたしは、夫が、わたしのことを、特に、何も、思っていない、と、感じていたのです。

ですが、夫の中には、ちゃんと、「ありがとう」が、ありました。

そして、その「ありがとう」を、伝えるタイミングを、夫は、ずっと、考えていたのです。

夫が、亡くなったのは、手紙を書いてから、2年後。 手紙を書いたとき、夫は、たぶん、これから5年か、10年、わたしと、過ごせると、思っていたはずです。

ですが、その時間は、夫には、与えられませんでした。

夫は、手紙を、わたしに、渡せなかった。

そして、わたしも、20年、その手紙を、見つけられなかった。

88歳のわたしが、夫の手紙に、書いた返事

手紙を読んだ夜、わたしは、夫に、返事を、書きました。

夫の手紙と同じ、A4の紙、1枚。

「良一さんへ。

20年、あなたの手紙を、見つけられなくて、ごめんなさい。

ですが、いま、88歳になって、あなたの手紙を、読みました。

あなたが、ずっと、わたしに、感謝してくれていたこと、わかりました。

わたしも、あなたに、感謝しています。

40年、あなたが、ちゃんと、家族を、養ってくれて、本当に、ありがたかった。

あなたが、いま、上から、わたしを、見守ってくれていること、感じています。

あなたの手紙を、わたしの寝室の、本棚に、飾ります。

そして、毎朝、あなたに、おはようと、言います。

これからも、わたしの中で、あなたは、ずっと、いっしょです。

ありがとう、良一さん。

由紀子」

書いて、わたしは、また、ふるえる手で、夫の遺影の前に、置きました。

夫は、上から、たぶん、こう、つぶやいた、と、思います。

「あぁ、由紀子、ようやく、見つけてくれたな」

同じ立場の方へ

もし、いま、ご主人(または、お母様、お父様)を、亡くされて、遺品整理を、終えた、と思っている方が、いらっしゃるなら、申し上げたいことが、ひとつあります。

机の、いちばん下の引き出しの、いちばん奥。 本棚の、本と本のあいだ。 タンスの、いちばん上の段の、奥。 古いノートの、最後のページ。

これらの「隅っこ」を、もう一度、ゆっくり、見てみてください。

ご家族が、あなたに、伝えたかったことを、残してくれているかも、しれません。

20年経って、見つかることも、あります。 30年経って、見つかることも、あります。

40年連れ添ったわたしが、夫の手紙を、20年経って、ようやく、見つけました。

そして、夫が、ずっと、わたしに、感謝してくれていたことを、知りました。

これは、わたしの88歳の、いちばん、思いがけない、贈り物になりました。

ご家族の「隅っこ」を、ぜひ、もう一度、見てみてください。

あなたへの、思いがけない、手紙が、待っているかも、しれません。

なお、遺品の発見や整理は、ご家族の状況で違います。ご自分のペースで、無理なく進めてください。

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