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認知症グレーゾーンの母と暮らす、わたしの3つの観察
82歳の母は、認知症ではない、ですが、明らかに以前と違う。病院では『年齢相応』と言われ、はっきりした診断はつかない、いわゆるグレーゾーンの2年。62歳の娘のわたしが、毎週通いながら、母の小さな変化を3つの観点で観察してきた記録です。
82歳の母は、認知症では、ありません。
少なくとも、病院では「年齢相応の物忘れですね」と言われ続けて、2年が経ちます。
ですが、わたしの母は、明らかに、以前とは違います。
冷蔵庫の中に、同じ品物が3つあったり。 電話で話したことを、その日の夕方には忘れていたり。 昔の友達の名前が、ぱっと出てこないことが、増えたり。
そのどれも、「年齢相応」と言われればそうなのです。 ですが、わたしの感覚では、「ぜんぶ合わせると、なにか、ある」のです。
世間で「認知症グレーゾーン」と呼ばれる状態の、いちばん入り口にいるのかもしれません。
この記事では、62歳のわたしが、母を毎週見ながら、2年間続けてきた「3つの観察」を、お伝えします。
グレーゾーンとは(60代向けに簡単に)
「認知症グレーゾーン」「軽度認知障害(MCI)」などと呼ばれる状態は、認知症と健康のあいだにある、移行期と言われています。
特徴は、こんな感じです。
- 物忘れがある(本人も自覚している)
- 日常生活は、ほぼ問題なく過ごせる
- 仕事や複雑な作業に、少し時間がかかる
- 認知症の診断基準には、まだ満たない
母の主治医からは、こう聞きました。
「グレーゾーンの方の中には、その後数年で認知症に進む方も、ずっとそのままの方も、健康に戻る方もいます。確実な未来は、誰にも分かりません。だから、ご家族ができるのは『見続けること』だけです」
「見続ける」。
これが、わたしの2年間のテーマになりました。
観察① 「同じ話を、何回するか」を、月ごとに数える
ひとつめの観察は、母が同じ話を1ヶ月で何回するか、です。
母は、もともと話好きな人で、若い頃から、同じ話を繰り返すクセがありました。 ですから、「同じ話を繰り返す」だけでは、認知症のサインとは限らないと、医師から教わりました。
ですが、その回数の変化は、観察に値する、と。
わたしは、簡単な記録をつけています。
ノートに、月ごとに、「同じ話を聞いた回数」をメモするだけ。
2年前(母80歳): 月平均 2、3回 1年前(母81歳): 月平均 4、5回 今(母82歳): 月平均 7、8回
少しずつ、増えています。
これは、母が「年齢相応」と言われる範囲かもしれません。 ですが、わたしには、母の中で何かが、少しずつ変わっているサインに見えます。
主治医にも、この記録を毎回見せています。 医師は、「数字が急に倍になる時期があったら、その時に詳しい検査をしましょう」と言ってくれています。
数字で残しておくと、変化が「気のせい」では片づけられなくなります。
観察② 「冷蔵庫の中身」を、毎週撮る
ふたつめの観察は、毎週、母の冷蔵庫の中身を、スマホで撮影することです。
冷蔵庫の中は、その人の暮らしの「正確な記録」だと、わたしは思っています。
母の冷蔵庫を、わたしが毎週訪問するときに、ぱっと開けて、写真を1枚撮ります。
2年分の写真を見返すと、こんな変化がありました。
2年前: 食材が、種類別にきれいに並んでいた 1年半前: 同じ品物が、たまに2つ並んでいた 1年前: 同じ品物が、毎週のように2つ、3つ並んでいた 半年前: 賞味期限切れが、毎週1、2品見つかるようになった 最近: 開けたまま忘れている食品(ヨーグルト、納豆など)が、増えた
これは、「食材の管理」の能力が、少しずつ落ちてきている、サインだと思っています。
冷蔵庫の中の異変は、ご本人は気づきません。 ですが、家族が定期的に見れば、ゆっくりした変化が、はっきり、見えます。
わたしは、母には言わずに、毎週、冷蔵庫を整理して、賞味期限切れを処分して、写真だけ撮って帰ります。
「お母さん、また同じもの買っちゃったね」とは、絶対に言いません。 母を傷つけるだけだからです。
家族が黙って、整えていく。 それが、グレーゾーンの「見続ける」の、ひとつの形です。
観察③ 「家のなかの動線」が、変わっていないか
3つめの観察は、家のなかでの母の動線(普段歩くルート)です。
母は、ひとり暮らしです。 家のなかで、ほぼ毎日同じルートを歩いています。
朝、寝室から出て→トイレ→洗面所→台所→リビング。 昼、リビングから台所→電話のそば→トイレ→リビング。 夜、リビングから台所→お風呂→寝室。
このルートが、ある時期から、少しずつ「ずれる」ようになりました。
2年前: 動線通り、迷わず移動 1年前: たまに「あれ、何取りに行こうとしたんだっけ」と立ち止まる 半年前: 寝室に入って、また廊下に戻り、トイレに行く、というように、行動が中断するように 最近: リビングと台所のあいだで、ぼんやり立ち止まる時間が増えた
これは、わたしが訪問したときに、母を観察して気づきました。
母自身は、これを「気づいていない」ようです。 本人にとっては、自然な動きの中にある、小さなつまずきだからです。
「動線のずれ」も、認知症の早期サインのひとつ、と本で読みました。 家のなかでも、ぼんやり立ち止まることが増えるのは、頭の中で「次に何をするか」を組み立てるのに時間がかかっているからだそうです。
これを観察するために、わたしは、訪問時に「お母さんの後ろから、5分ついて歩く」時間を、必ず取るようにしています。 ぜんぜん不自然なことではなく、母とおしゃべりしながら、後ろをついていくだけです。 それで、母の動線の変化を、ゆるく、確認できます。
グレーゾーンの母と暮らす、3つの心構え
2年、母を観察しながら、わたしの中で、3つの心構えが、できてきました。
心構え① 「気づいたこと」を、本人に直接言わない
「最近、同じものばかり買ってるね」 「あれ、また忘れたの?」 「もう何回同じこと言ったか」
これらは、絶対に、言いません。
グレーゾーンの方は、まだ自分の変化に気づいています。 家族から指摘されると、傷つき、自信を失い、引きこもります。 そうすると、認知症の進行が早まる、と主治医に教わりました。
「気づいたこと」は、わたしの中だけにとどめておく。 そして、わたしが、それを補う形で動く。
これが、わたしの2年の基本姿勢になりました。
心構え② 主治医と「観察ノート」を共有する
家族のなかだけで観察しても、それを医師が知らないと、いざという時の判断材料になりません。
わたしは、3ヶ月に1回の母の通院に、必ず付き添います。
その時、わたしの観察ノート(同じ話の回数、冷蔵庫の変化、動線のずれなど)を、医師にぜんぶ見せます。
医師は、それを毎回、しっかり読んで、母の今の状態を判断してくれます。
医師にとっては、診察室の5分の母より、家族の3ヶ月分の観察記録のほうが、はるかに正確な情報源です。
これは、ぜひ、グレーゾーンの方のご家族にお勧めしたい習慣です。
心構え③ 「今は今」を、母と過ごす
最後の心構えは、未来への不安を、いまの母に持ち込まないこと。
母が、将来認知症になるかもしれない、という不安。 母を、いつか施設に入れることになるかもしれない、という不安。 母が、わたしを認識しなくなる日が来るかもしれない、という不安。
ぜんぶ、未来のことです。
未来を恐れていると、今、目の前にいる母に集中できません。 ですから、わたしは、訪問中は、未来のことを考えないことにしています。
母とお茶を飲んで、母の話を聞いて、母と一緒に近所を散歩して、母と一緒に夕飯を作って。
今日の母を、今日のわたしと過ごす。 それだけに、集中する。
これが、グレーゾーンの母と過ごす、いちばん大事な姿勢かもしれない、と思っています。
いつ、認知症の本格的な対応に切り替えるか
最後に、グレーゾーンから認知症の本格対応に切り替える、目安についても、医師から聞いた内容を、簡単にお伝えします。
医師からは、こんなサインがあったら、すぐに連絡を、と言われています。
- 同じ話の回数が、月10回を超えるようになる
- 家のなかで道に迷うことがある(寝室がどこか分からなくなる)
- 火を消し忘れたり、水を出しっぱなしにする
- 電話を、知らない人とつなぐようになる(振り込め詐欺リスク)
- 服装が、季節と合わなくなる(真冬に半袖など)
- ひとりで通院ができなくなる
これらが2つ以上揃ったら、認知症の本格的な検査と、地域包括支援センターへの連絡を、と医師から言われました。
わたしは、いまも、観察ノートで、これらの兆候を、見続けています。
さいごに
認知症グレーゾーンは、家族にとって、不安な時期です。
ですが、不安に飲まれずに、「観察」という形で、母と関わり続けることで、わたし自身の心も、ずいぶん落ち着いてきました。
3つの観察(同じ話の回数、冷蔵庫、動線)は、特別な道具もいりません。 ノート1冊と、スマホがあれば、誰でも始められます。
そして、その記録は、主治医にとって、診察の重要な材料になります。
未来は、誰にも分かりません。 ですが、今日の母を、今日のわたしが、ちゃんと観察している。 それが、グレーゾーンの母と暮らす、わたしの2年でした。
なお、認知症の兆候や対応は、個人差が大きく、地域包括支援センターや専門医療機関による相談・診断が必須です。気になる症状があれば、必ず早めに医療機関にご相談ください。
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