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コラム

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88歳の母の財布、わたしが代わりに整理した1日のこと

ヨバナシ編集部 読了 約6分

88歳の母の財布が、ぱんぱんに膨れていました。買い物のお手伝いに行ったある土曜日、わたしは思いきって、母の財布を、ふたりで整理してみました。1時間半で出てきた、20年前のレシート、孫の写真、知らない人の電話番号。母の人生が、財布の中に、ぜんぶ詰まっていた話を、お伝えします。

88歳の母の財布が、ある日、ぱんぱんに膨れていました。

買い物のお手伝いに、わたしが実家に行った、土曜日の午後でした。

母が、お会計でお財布を出すのに、もたついていました。

「お母さん、財布、わたしが持つよ」

そう言って、わたしは母の財布を、預かりました。

財布は、本当に、ぱんぱんでした。

レシート、ポイントカード、診察券、メモ、写真、何かわからないチラシ。 お金とは関係ないものが、ぎっしり、詰まっていたのです。

スーパーのレジで、5分くらい、わたしと母は、もたつきました。 後ろのお客さんに、申し訳なくて、わたしは、汗が出ました。

帰り道、母にこう聞きました。

「お母さん。今度、お母さんの財布を、ふたりで整理してみる?」

母は、しばらく考えてから、こう答えました。

「うん、お願い」

その翌週の土曜日、わたしと母は、財布の中身を、ぜんぶ、テーブルに広げました。

そして、1時間半で、母の人生が、財布の中に、ぜんぶ詰まっていたことに、気づきました。

今日は、その1日の話を、書きたいと思います。

財布の中から、出てきたもの

最初に、出てきたものを、整理して、お伝えします。

お札と硬貨

  • お札: 1万円札 3枚、千円札 7枚
  • 硬貨: 全部で約2,000円分

母の年金生活で、これくらいの現金を、いつも持ち歩いていました。

必要な、有効なカード

  • 銀行のキャッシュカード(地方銀行、ゆうちょ)
  • 健康保険証
  • 介護保険被保険者証
  • 運転免許証(返納手続き済みのはずなのに、なぜか入っていた)

最後の運転免許証は、3年前に返納したはずでした。 ですが、なぜか、財布の中に、ありました。 これは、後で返納手続きに、もう一度、行く必要があると気づきました。

ポイントカードと、診察券

  • スーパーのポイントカード: 12枚
  • 美容院、薬局、本屋、靴屋などのポイントカード: 8枚
  • 病院の診察券: 7枚

ポイントカードの中には、5年以上使っていない、地元のスーパー(すでに閉店)のものも、ありました。 診察券の中には、3年以上通っていない、整形外科や歯科のものも、ありました。

これらを、ぜんぶ、母と相談しながら、整理しました。

古いレシート

これが、いちばん、たくさんありました。

20年前のレシートが、3枚も、出てきました。 10年以上前のレシートも、たくさん。

母に聞くと、「いつか何か買い直すときに、見るかもしれないから」とのことでした。

母にとって、レシートは、過去の買い物の「証拠」のようなものだったのです。

メモと、紙切れ

A6サイズの紙切れに、知らない人の電話番号が、書かれていました。

母に聞くと、こう答えました。

「ああ、それね。10年前、母の習い事の先生だった、〇〇さんの番号」

10年前の習い事の先生の電話番号を、財布に入れたまま、母は、いまも、持ち歩いていたのです。

写真

ぜんぶ、孫の写真でした。

5枚、ありました。

  • わたしの息子(母にとっての孫)の、幼稚園時代の写真
  • 同じく、小学校入学のときの写真
  • 同じく、中学校卒業のときの写真
  • 弟の子ども(母にとってのもうひとりの孫)の、5歳のとき
  • 同じく、結婚式のとき(去年)

母の孫への気持ちが、財布の中に、ぜんぶ、詰まっていたのです。

古いお守り

3つ、出てきました。

ぜんぶ、わたしと、わたしの息子の名前が書かれた、お守りでした。

「お母さん、これ、いつのお守り?」

「ああ、それね。あなたが結婚したときの。あなたと、英樹(夫)の名前、書いてある」

35年前のお守りを、母は、財布に入れたまま、いまも、持ち歩いていたのです。

涙が、出ました。

1時間半で、整理した結果

1時間半かけて、母と一緒に、整理しました。

最後に、財布に残ったのは、こんなものでした。

  • お札と硬貨(必要分)
  • 銀行のキャッシュカード2枚
  • 健康保険証
  • 介護保険被保険者証
  • ポイントカード3枚(よく使うスーパーと薬局)
  • 診察券3枚(かかりつけの内科、整形外科、歯科)

財布は、ぐっとスリムになりました。

母に、こう聞きました。

「お母さん、お守りと、孫の写真は、どうする?」

母は、しばらく考えてから、こう答えました。

「お守りは、神棚に。孫の写真は、お母さんの寝室の写真立てに、入れたいわ」

それで、わたしは、お守りを神棚に、写真を寝室の写真立てに、移しました。

孫の写真は、財布の中で、母を支えていた、お守りでした。 神棚と寝室に移したことで、母が、もっとよく、孫の顔を見られるように、なりました。

整理したあとの、母

整理が終わって、母は、しばらく、新しい財布を、手に持って、眺めていました。

「軽くなったね」

「そうね、お母さん。スリムになったね」

「これで、お会計のとき、もたつかなくなるかな」

「うん、たぶん、ね」

母は、ちょっと笑って、こう続けました。

「お母さん、財布、お母さんの人生だと思ってたの。捨てるの、こわかったの」

その言葉が、わたしに、ぐっと、響きました。

母にとって、財布は、お金を入れるものではなく、「お母さんの人生を、いつも持ち歩く場所」だったのです。

ですから、レシート、写真、お守り、知らない人の電話番号、ぜんぶ、母にとっては、捨てられない、ものだったのです。

財布の整理は、ある意味、母の人生の、整理でも、ありました。

1時間半で気づいた、3つのこと

1時間半で、わたしが気づいたことが、3つあります。

ひとつめ: 親の財布は、親の歴史

親の財布の中には、親の何十年もの歴史が、詰まっています。 レシート、メモ、写真、お守り。 これらを、機械的に「不要だから捨てる」のは、親の人生を、軽く扱うことになるかもしれません。

ですから、整理は、ひとつずつ、親と相談しながら、進める。 「これ、どうする?」「これは、なぜ大事?」「これ、別の場所に移そうか」。 1枚ずつ、対話しながら進めることが、いちばん大事でした。

ふたつめ: 整理は、親との「思い出話」の機会になる

財布の中身を、ひとつずつ広げると、そこから、親の若い頃の話、孫が小さかった頃の話、亡くなった父の話、ぜんぶ、出てきました。

整理は、「片付け」では、なく、「親と過ごす、深い時間」でした。

1時間半のうち、半分以上は、母の昔話を、聞いていました。 これは、わたしにとって、宝物の時間に、なりました。

みっつめ: スリムな財布は、親の今の安心にもなる

ぱんぱんの財布で、お会計のときに、もたつくのは、母にとっても、ストレスでした。 スリムになった財布で、お会計が、スムーズになったことで、母は、買い物に出かけることが、楽になりました。

スリム化は、機能の向上でも、ありました。

親の財布整理を、これからやる方へ

もし、親の財布が、ぱんぱんに膨らんでいて、整理したい方がいらっしゃるなら、申し上げたいことが、3つあります。

ひとつめ、整理は、必ず「親と一緒に」やってください。 親に内緒で整理すると、親の信頼を失います。 1時間半、テーブルに広げて、ひとつずつ、相談しながら進めてください。

ふたつめ、写真とお守りは、別の場所に「移す」と、提案してください。 捨てるのではなく、神棚、寝室の写真立て、家族のアルバム、別の場所に大事に移す。 これで、親も納得して、財布をスリムにできます。

みっつめ、整理の時間は、「親との思い出話の時間」と、思って、ゆっくり過ごしてください。 1枚ずつ、過去の話を聞きながら、進めてください。 それが、整理と、親孝行の、両方を、同時にやることに、なります。

さいごに

母の財布を整理した、あの1時間半。

わたしは、母の人生の、たくさんの場面を、母から、もう一度、聞きました。

母が、35年前、わたしの結婚のときに、神社で受けてくれたお守り。 母が、毎日、孫の写真を見て、元気をもらっていた、ということ。 母が、10年前の習い事の先生のことを、いまでも、ふと思い出している、ということ。

ぜんぶ、財布の中から、出てきた、母の人生の小さな、宝物でした。

これらは、もう、財布の中には、ありません。

ですが、母の寝室の写真立てと、神棚に、移されました。 そして、わたしの心の中にも、母の人生として、確かに、しまわれました。

整理は、捨てることでは、ありません。

整理は、大事なものを、別の場所に、もう一度、大事にしまうこと、なのです。

それを、88歳の母から、わたしは、学びました。

なお、親の財布整理のタイミング、進め方は、ご家庭ごとに違います。ご家族のペースに合わせて、無理なく進めてください。

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