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コラム

= COLUMN =

義母と行った、最後の温泉旅行

ヨバナシ編集部 読了 約3分

施設に入る前に、一度だけ、と義母を誘った一泊の温泉旅行。嫁いで30年、ふたりで旅をしたのは初めてでした。湯けむりの向こうで義母がぽつりと話した、嫁のわたしが知らなかった昔話。65歳のわたしが、義母との最後の旅で受け取ったものを、ゆっくりお伝えします。

義母が、施設に、入ることが、決まった、秋のこと。

わたしは、ふと、思い立って、義母を、誘いました。

「お義母さん、その前に、一度、温泉にでも、行きませんか」

自分でも、意外な、ひとことでした。

嫁いで、30年。

義母と、ふたりきりで、旅を、したことなど、一度も、なかったのですから。

今日は、その、義母と行った、最後の温泉旅行の話を、お伝えします。

なお、これは、わたし個人の、体験です。義母との関係は、人それぞれ、違います。あくまで、ひとつの話として、お読みください。

思いつきで、誘った旅

義母は、90歳を、前にして、足が、弱り、ひとり暮らしが、難しく、なっていました。

家族で、話し合い、施設への、入居が、決まったのが、その年の、夏。

入居の、日取りが、決まると、わたしの、胸に、なんとも、いえない、気持ちが、わいてきました。

長年、暮らした、家を、離れる義母。

このまま、送り出して、いいのだろうか。

そんなとき、口を、ついて、出たのが、あの、ひとことでした。

「温泉にでも、行きませんか」

義母は、少し、おどろいた顔を、してから、ふっと、笑いました。

「あら、いいわね。あなたと、ふたりで、なんて、初めてじゃない」

湯けむりの、向こうで

近場の、温泉宿に、一泊。

足の悪い、義母に、合わせて、ゆっくり、ゆっくりの、旅でした。

夕方、ふたりで、湯に、つかりました。

義母の、背中を、流しながら、わたしは、その背中の、小ささに、胸を、つかれました。

嫁いだ頃、あんなに、大きく、こわく、見えた義母。

その背中は、いつのまにか、こんなに、小さく、なっていたのです。

湯けむりの、向こうで、義母が、ぽつりと、言いました。

「お風呂で、人に、背中を、流してもらうなんて、何十年ぶりかしらねえ」

義母の、昔話

その夜、布団を、並べて、横になると、義母は、ぽつりぽつりと、昔話を、始めました。

嫁いで、30年、聞いたことの、なかった話です。

義母もまた、姑に、厳しく、された嫁だったこと。

「三段のお重も、ぬか床も、ぜんぶ、わたしが、姑さんから、引き継いだのよ。あなたに、厳しく、したのも、そうしなきゃ、いけないと、思い込んでたのね」

暗がりの中で、義母は、続けました。

「でもね、いまの時代、そんなもの、ぜんぶ、背負わなくて、いいのよ。あなたは、あなたの、やり方で、いいの」

わたしは、天井を、見つめたまま、返事が、できませんでした。

30年、義母の、厳しさに、身構えて、きたわたし。

その義母も、同じ道を、通ってきた、嫁だったのです。

別記事(義母から受け継いだ、ぬか床の話)にも書いた、あのぬか床にも、そんな、歴史が、あったのだと、初めて、知りました。

「ありがとうね」

翌朝、宿を、出るとき、義母は、玄関で、立ち止まって、言いました。

「いい旅だったわ。ありがとうね」

そして、少し、間を、おいて。

「あなたが、うちの、お嫁さんで、よかった」

わたしは、うまく、返事が、できずに、「また、来ましょうね」とだけ、言いました。

でも、ふたりとも、わかっていました。

義母の、足では、もう、旅は、難しい。

これが、最初で、最後の、ふたり旅に、なることを。

旅が、くれたもの

義母は、いま、施設で、穏やかに、暮らしています。

会いに、行くたび、あの旅の、話に、なります。

「あの、お宿の、湯豆腐、おいしかったわねえ」

たった、一泊の、旅。

でも、あの旅が、30年の、わだかまりを、ゆっくり、ほどいて、くれました。

別記事(義母とのわだかまりが、孫の誕生でほどけた日)にも書きましたが、長い、嫁姑の、時間は、思いがけない、きっかけで、変わるものです。

もし、あのとき、思いつきの、ひとことを、飲み込んでいたら。

わたしは、義母の、昔話も、「お嫁さんで、よかった」の、ひとことも、受け取れないまま、だったと思います。

さいごに

施設に、入る前の、義母と行った、一泊の、温泉旅行。

嫁いで、30年で、初めての、ふたり旅は、最初で、最後の、旅に、なりました。

小さくなった、義母の背中。

湯けむりの、向こうの、昔話。

「あなたが、うちの、お嫁さんで、よかった」の、ひとこと。

あの旅で、受け取ったものは、わたしの、これからを、ずっと、あたためて、くれると思います。

もし、心の、どこかで、「一度くらい、ふたりで」と、思う気持ちが、あるなら。

思い切って、誘ってみて、ください。

遠くの、名湯で、なくていい。

近場の、一泊で、じゅうぶん。

その旅が、長い年月の、わだかまりを、ほどいて、くれるかも、しれません。

義母との、距離感に、悩んでいる方は、別記事(義母との距離感に疲れた50〜60代妻の完全ガイド)も、あわせて、ご覧ください。

なお、義母との関係は、ご家庭ごとに、本当に違います。ご自分の、ペースで、無理のない、かたちを、選んでください。

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#義母 #嫁姑 #看取り