= COLUMN =
義母から受け継いだ、ぬか床の話
義母が亡くなって、わたしが受け継いだものは、財産でも、立派な品でもなく、台所にあった一つのぬか床でした。50年もののぬか床を、嫁のわたしが引き継いで、毎日かき混ぜる。その手のひらに伝わる、義母の50年。受け継ぐということの意味を、ゆっくりお伝えします。
65歳のわたしの、義母(夫の母)が、亡くなって、1年が、過ぎました。
別記事(義姉と二人で、母を見送った、最後の一週間)に書いた、義母の、看取り。
義母が、亡くなって、義実家の、片づけを、進める中で、わたしが、いちばん、受け継ぎたいと、思ったもの。
それは、財産でも、立派な品でも、ありませんでした。
義実家の、台所に、あった、ひとつの、ぬか床でした。
義母が、50年、毎日、かき混ぜて、育ててきた、ぬか床。
今日は、その、ぬか床を、受け継いだ話を、お伝えします。
「義母から、何を、受け継ぐか」「受け継ぐ、ということの意味」を、感じている方に、ひとつの参考に、なれば、と思います。
義実家の台所の、ぬか床
義実家の、片づけを、していたとき。
台所の、隅に、古い、ぬか床の、容器が、ありました。
義母が、亡くなって、しばらく、誰も、手入れを、していなかった、ぬか床。
でも、ふたを、開けると、まだ、あの、懐かしい、ぬか漬けの、匂いが、しました。
義母の、ぬか漬けは、本当に、おいしかった。
お盆や、お正月に、義実家に、帰ると、義母は、いつも、わたしに、ぬか漬けを、出して、くれました。
「由紀子さん、これ、食べてね」
きゅうり、なす、大根。
義母の、ぬか漬けは、わたしの、義実家での、いちばんの、楽しみでした。
「このぬか床、いただいていいですか」
わたしは、夫に、聞きました。
「お父さんの、ぬか床、わたしが、受け継いでも、いい?」
夫は、ちょっと、驚いた顔を、して、こう、言いました。
「ぬか床なんて、もう、ダメに、なってるんじゃないか?それより、母さんの、宝石とか、着物とか、そういうのを、もらえば、いいのに」
でも、わたしは、宝石でも、着物でも、なく、このぬか床が、ほしかった。
「ううん、わたし、このぬか床が、いいの。お義母さんの、味を、受け継ぎたいの」
夫は、ふっと、笑って、頷いて、くれました。
「母さん、喜ぶよ。由紀子が、ぬか床を、継いでくれたら」
50年もののぬか床を、復活させる
家に、持ち帰った、ぬか床。
しばらく、手入れが、されて、いなかったので、表面が、ちょっと、白く、なって、いました。
わたしは、義母の、ぬか床を、復活させるために、調べたり、近所の、漬物上手の、奥さんに、聞いたり、しました。
- 表面の、白い部分(産膜酵母)を、取り除く
- 新しい、ぬかと、塩を、足す
- 毎日、朝晩、底から、かき混ぜる
- 捨て漬け(くず野菜)で、ぬか床を、整える
1週間、毎日、手入れを、続けると、義母の、ぬか床は、少しずつ、元気を、取り戻して、いきました。
そして、2週間後。
初めて、漬けた、きゅうりを、食べたとき。
あの、義母の、味が、しました。
「お義母さんの、味だ」
わたしは、台所で、ひとり、涙が、出ました。
毎日、かき混ぜる、手のひらに、伝わるもの
それから、わたしは、毎日、朝晩、義母の、ぬか床を、かき混ぜて、います。
手を、入れて、底から、ぐるりと、かき混ぜる。
その、手のひらに、ぬか床の、ひんやりとした、感触が、伝わります。
そして、ふと、思うのです。
義母も、50年間、毎日、この、ぬか床を、こうやって、かき混ぜて、きたんだ、と。
朝、起きて、まず、ぬか床を、かき混ぜる。 夜、寝る前に、もう一度、かき混ぜる。
義母の、50年の、毎日が、この、ぬか床に、染み込んで、いる。
そして、いまは、わたしの、手が、それを、受け継いで、いる。
ぬか床を、かき混ぜる、その時間は、わたしにとって、義母と、つながる、大切な、時間に、なりました。
受け継ぐ、ということの意味
義母の、ぬか床を、受け継いで、わたしが、感じた、「受け継ぐ、ということの意味」を、お伝えします。
意味① 「もの」ではなく、「営み」を、受け継ぐ
わたしが、受け継いだのは、ぬか床という、「もの」では、ありません。
義母が、50年、毎日、続けてきた、「かき混ぜる」という、営み。
その、営みを、受け継ぐことが、いちばん、大事だと、感じました。
立派な、宝石や、着物より、毎日の、暮らしの、営みのほうが、義母を、ずっと、近くに、感じさせて、くれます。
意味② 受け継ぐと、その人が、生き続ける
義母は、亡くなりました。
でも、義母の、ぬか床は、いまも、わたしの、台所で、生きて、います。
そして、義母の、味は、わたしの、ぬか漬けの中に、生き続けて、います。
受け継ぐと、その人が、形を、変えて、生き続ける。
それを、ぬか床が、教えて、くれました。
意味③ いつか、わたしも、誰かに、受け継ぐ
わたしは、いつか、この、義母の、ぬか床を、息子の、お嫁さんか、誰かに、受け継ぎたい、と、思って、います。
「これは、おばあちゃんの、ぬか床なのよ」と、伝えて。
義母から、わたしへ。 わたしから、次の世代へ。
50年もののぬか床が、100年もの、150年ものに、なって、いく。
そう、考えると、毎日の、かき混ぜが、もっと、愛おしく、感じられます。
同じ立場の方へ
もし、いま、義母(義親)から、何を、受け継ぐか、考えている方が、いらっしゃるなら、申し上げたいことが、あります。
財産や、立派な品も、大事ですが、ぜひ、義母が、毎日、続けてきた、暮らしの、営みにも、目を、向けてみてください。
ぬか床、梅干し、味噌、お正月の、おせちのレシピ。 庭の、手入れ、植木。 編み物、お裁縫。
そういう、毎日の、営みを、受け継ぐことが、義母を、いちばん、近くに、感じさせて、くれます。
そして、その営みは、あなたの、毎日も、豊かに、してくれます。
さいごに
義母から、受け継いだ、ぬか床。
財産でも、宝石でも、なく、台所の、隅にあった、50年もののぬか床。
毎日、朝晩、かき混ぜる、その手のひらに、義母の、50年の、毎日が、伝わってきます。
「もの」では、なく、「営み」を、受け継ぐ。 受け継ぐと、その人が、生き続ける。 そして、いつか、次の世代へ、受け継いでいく。
義母の、ぬか床が、わたしに、受け継ぐ、ということの、本当の意味を、教えて、くれました。
今日も、わたしは、義母の、ぬか床を、かき混ぜます。 お義母さんと、つながる、大切な、時間として。
なお、受け継ぐものの、かたちは、人それぞれです。ご自分にとって、大切なものを、大切に、受け継いでください。
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