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コラム

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大河を夫と毎週見るようになって、夫婦の会話が変わった話

ヨバナシ編集部 読了 約5分

結婚35年、定年退職した夫との会話が減って、何ヶ月も同じパターンの夜を繰り返していました。きっかけは、夫が始めた大河ドラマ。最初は付き合いで隣に座っただけのわたしが、半年たって気づいた、夫婦の会話の変化を、64歳の今、書きます。

夫が定年退職して、1年が経ちました。

定年したての半年、わたしと夫の会話は、急に減りました。

それまで、わたしが「今日、〇〇のスーパー、安かったよ」と話せば、夫は「ふうん」と返してくれていました。 夫が「今日、課長から〇〇って言われてさ」と話せば、わたしは「あらまあ」と返していました。

定年退職した夫には、もう「今日、課長から」がなくなったのです。

夫はテレビを見て、わたしは家事をして、夕飯を一緒に食べて、それぞれの趣味の時間を過ごす。 言葉は、1日に20往復もないような日が、続きました。

35年連れ添って、いちばん会話の少ない時期に、わたしたちは入っていたのです。

そんなある日、夫が、こう言いました。

「今年の大河、見てみるか」

そこから半年、わたしたち夫婦に、思いがけない変化が起きました。

夫が大河を見始めた、ある日曜の夜

最初、夫が大河を見始めたのは、特別な理由はありませんでした。

たまたま、その時間にテレビをつけたら、大河の第1話だったのです。

夫は、もともとテレビをよく見る人ではありませんでした。 特に、時代劇は「面倒くさい」と言って、若い頃から避けていました。

それなのに、その夜、夫は最後まで見ました。

途中、わたしが横を通りかかると、夫はテレビ画面に集中していました。

第1話が終わって、夫はぽつりと、こう言いました。

「来週もちょっと見てみるか」

それを聞いて、わたしは、夕食の片づけが終わってから、夫の横に座りました。

なんとなく、です。 夫が見ているものを、わたしも一緒に見てみよう、と思ったのです。

最初の3週間、わたしはほとんど寝ていた

正直、最初の3週間、わたしは大河の内容が、まったく分かりませんでした。

登場人物が多すぎる。 時代背景が分からない。 言葉遣いが古い。

夫の横に座って、10分くらいで、わたしはこっくり眠っていました。

「お前、ちっとも見てねえじゃないか」

夫が、笑いながらツッコミを入れました。

わたしは、申し訳ない気持ちで、こう答えました。

「ごめんなさい、わたし、時代劇って苦手で」

夫は、テレビを止めて、こう言いました。

「俺も、若い頃は苦手だったんだよ。でもな、誰が誰の家来とか、どこの大名がどっちの味方とか、それが分かってくると、面白いんだよ」

それから夫は、テレビをいったん止めて、わたしに、登場人物の関係を、10分くらいかけて説明してくれました。

紙にも、何人かの名前を、書いてくれました。

35年連れ添って、夫がわたしに、何かを「教えてくれる」のは、たぶん、初めてでした。

第4話から、わたしも分かるようになった

夫の解説のおかげで、第4話のあたりから、わたしも少しずつ、話が分かるようになりました。

そして、わかるようになると、急に面白くなりました。

ある登場人物が、誰かを裏切る場面で、わたしは思わず、こう言いました。

「えっ、あの人、裏切るの?」

夫は、ニヤッと笑って、こう答えました。

「やっと、お前も分かってきたな」

その夜、わたしと夫は、大河を見終わってから、30分くらい、二人でお茶を飲みながら、話しました。

「あの人、最初から怪しかったよね」 「いや、俺は途中まで気づかなかった」 「来週は、どうなるんだろうね」

これだけのことが、わたしと夫の夜の30分を、急に、温かいものにしたのです。

半年経って、会話の質が変わった

それから半年、わたしと夫は、日曜の夜の8時を、必ず一緒に過ごすようになりました。

そして、不思議なことが起きました。

日曜の夜の30分だけでなく、平日の会話も、ぐっと増えたのです。

理由は、いくつかありました。

ひとつは、大河の話題が、平日も続くこと。 水曜の夕食中に、「あの人、今度どうするんだろうね」「俺、〇〇するんじゃないかと思うんだよ」と、ふと話が始まるのです。

ふたつめは、共通の「楽しみ」ができたこと。 それまで、わたしと夫の楽しみは、別々でした。夫はゴルフ、わたしは編み物。日曜の夜の大河は、わたしたち2人だけの共通の楽しみになりました。

みっつめは、夫が「教える側」になれたこと。 最初の3週間、夫がわたしに歴史を教えてくれたことで、夫の自尊心が、たぶん少し、回復したのです。定年退職して「もう誰にも何も教えられない」と感じていた夫が、わたしに毎週、ちょっとした歴史話をしてくれる。それが、夫にとって大事な役割だったようです。

大河は「会話のきっかけ」だった

大河そのものが、わたしと夫の関係を変えたわけでは、たぶん、ありません。

大河は、わたしと夫にとって「定期的に共通の話題ができる仕組み」だったのです。

似たような仕組みは、ほかにもあります。

  • 毎週同じ番組を見る
  • 毎週同じ料理を一緒に作る
  • 毎週、同じ散歩コースを歩く
  • 毎週、同じ図書館に行く

「定期的に、夫婦で一緒にやる小さなこと」が、会話を生み出します。

35年連れ添って、わたしは、これを知りませんでした。

会話は、自然と「湧いて」くるものだと思っていたのです。

ところが、定年退職後の夫婦は、会話を「仕組み」で作っていかないと、自然には湧いてこないのです。

大河以外でも、わたしたちが始めたこと

大河の成功体験から、わたしと夫は、もうひとつ、定期的なことを始めました。

土曜日の朝、一緒に近所のパン屋さんまで歩いて行くこと。

往復で40分くらいの散歩です。

パン屋さんで、その日の朝食のパンを2人で選びます。 帰りに公園のベンチで、5分くらい座って、お茶を飲みます。 家に帰って、買ってきたパンで朝食を食べます。

これも、毎週土曜の朝、固定です。

このパン屋さんの往復で、夫婦の会話が、また、増えました。

「今日のクロワッサン、いつもより大きかったね」 「あのおじいさん、犬連れて毎週ここに来てるよね」 「来週、雨だったら、車で行く?」

意味のない、軽い会話ばかりです。

でも、この軽い会話が、定年後の夫婦には、いちばん大事なのかもしれません。

64歳のいま、わたしが思うこと

定年退職した夫との会話が減って、寂しい思いをしている同世代の方は、たぶん、いっぱいいると思います。

35年も連れ添ったのに、お互いに話すことがない、と。

わたしも、半年前は、そう感じていました。

ですが、いま思うのは、こうです。

会話は、自然と湧いてくるものでは、ありませんでした。

「毎週、一緒にやる小さなこと」を、ふたりで決める。 それが、定年後の夫婦の会話の入り口でした。

大河ドラマでも、散歩でも、料理でも、何でもいいのです。

「毎週、一緒に」が大事で、それさえあれば、会話は、その仕組みのまわりから、自然に育ち始めます。

同じ寂しさを抱えている方へ

もし、いま、定年退職した夫(あるいは妻)との会話が減って、寂しい思いをしている方がいらっしゃるなら、申し上げたいことが、ひとつあります。

会話を「いきなり」増やそうとしないでください。

「最近、話さないね」「何か話そうよ」と言うと、相手は身構えます。

代わりに、「来週から、一緒に〇〇しない?」と、共通の楽しみを提案してみてください。

大河でも、散歩でも、料理でも、近所の公園のお花見でも。

「毎週、一緒に、短時間で、楽しめること」を、ひとつ。

それから半年、たぶん、夫婦の会話は、自然に育ち始めます。

35年連れ添ったわたしと夫が、64歳と65歳になって、ようやく学んだことです。

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