ヨバナシ —女たちの秘密会議
コラム

= COLUMN =

63歳、夫の浮気を疑った数ヶ月の、わたしの話

ヨバナシ編集部 読了 約5分

63歳の春、わたしは夫の浮気を疑い始めました。3ヶ月のあいだ、夫の小さな変化に振り回されて、夜が眠れなくなりました。65歳の今、振り返って、結局その疑いは何だったのか、わたしがどう抜け出したか、夫との関係はどう変わったか、正直に書きます。

63歳の春、わたしは、夫の浮気を、疑い始めました。

きっかけは、ある夜、夫が帰ってきたときの、シャンプーの匂いでした。

うちのシャンプーではない、ちょっと甘い、女性ものの匂いが、夫の髪から、ふっと、漂ったのです。

夫は、当時65歳。すでに定年退職していて、毎日ゴルフか、近所の喫茶店か、図書館に出かけていました。

その夜、夫は、いつもより遅い7時頃に帰ってきました。

「今日は、どこ行ってきたの」

わたしが聞くと、夫は、「いつもの図書館で、ぼーっとしてた」と答えました。

ですが、シャンプーの匂いは、図書館の匂いではない。

その夜から、わたしの3ヶ月が、始まりました。

疑いが、毎日少しずつ、大きくなった

最初の1週間、わたしは、自分の気のせい、と自分に言い聞かせました。

「夫は、もう65歳。浮気なんて、するわけない」 「シャンプーの匂いは、たまたま、図書館の誰かの匂いが移っただけかも」 「考えすぎ」

ですが、次の週から、わたしは、夫の行動を、毎日、意識して見るようになりました。

そして、見れば見るほど、いろんなことが、引っかかるのです。

  • 夫の出かける時間が、最近、不規則になっていた
  • スマホを、わたしの目につくところに置かなくなった
  • 服装が、少しだけ、こぎれいになった気がする
  • 帰宅後、すぐにお風呂に入るようになった
  • お小遣いの引き出しから、5万円減っていた月があった

これらは、それぞれは、たいしたことの、ない変化でした。

ですが、ぜんぶ重ねると、「もしかして、本当に?」という気持ちが、わたしの中で、大きくなりました。

夜、眠れなくなった

2ヶ月目から、わたしは、夜、眠れなくなりました。

夫が、隣で寝息を立てているのを聞きながら、暗い天井を見つめて、いろんなことを考えました。

「相手は、誰だろう」 「いつから始まったんだろう」 「離婚することになるかしら」 「離婚したら、わたしのお金は、どうなる」 「子どもには、なんて言おう」 「義両親にも、知られるのかしら」

夜中の3時、4時、わたしは、ベッドで、ずっと、目を開けたままでした。

朝、夫が「お前、最近、顔色悪いな」と心配してくれました。 ですが、わたしは「そうかしら」とだけ答えて、本当のことは、言えませんでした。

夫に「浮気してる?」と聞く勇気が、なかったのです。 聞いて、本当に浮気だったら、わたしは、どう動いたらいいか、わからなかったから、です。

3ヶ月目、わたしの母に、ぽろっと話した

3ヶ月目の春、わたしは、母に会いに、実家に行きました。

ふたりで、こたつで、お茶を飲んでいたとき、わたしは、ぽろっと、こう言いました。

「お母さん、わたし、最近、夫の浮気を疑ってるの」

母は、しばらく、わたしの顔を見て、こう聞いてくれました。

「何か、決定的な証拠があるの」

「ない。シャンプーの匂いとか、お小遣いの減りとか、それだけ」

母は、ふっと、笑いました。

「あんた、それ、お母さんも、若い頃、何回もあったよ」

え、と、わたしは驚きました。

母は、続けました。

「あんたのお父さん、現役の頃、たまに帰りが遅くて、シャンプーの匂いがしたことが、何回もあった。わたしも、何ヶ月も疑った。でも、結局、ぜんぶ、勘違いだったよ」

「お母さん、どうやって、抜け出したの」

「ぜんぶ、聞いた」

「聞いたの?お父さんに?」

「うん。『あなた、浮気してる?』って、まっすぐに、聞いた」

そして、お父さんは、「してない」と、まっすぐに、答えてくれた、と。

母は、こう続けました。

「夫を信じるか、信じないかは、最後は自分の判断。でも、疑ったまま3ヶ月も悩むより、聞いてみる方が、ずっとマシだよ。聞いてみて、本当に浮気だったら、その時に動けばいい。違ったら、すっきりする」

母の言葉が、わたしの背中を、押してくれました。

翌日の夜、夫に聞いた

実家から帰った翌日の夜、わたしは、夕食のあと、夫にお茶を入れました。

そして、静かに、こう聞きました。

「あなた。わたし、最近、あなたの浮気を、疑ってる」

夫は、お茶のカップを、ぴたっと、止めて、わたしの顔を、しばらく、見ていました。

そして、こう聞きました。

「なんで、そう思った?」

わたしは、ぜんぶ話しました。

シャンプーの匂い。 出かける時間の不規則さ。 スマホの置き場所。 お小遣いの減り。

夫は、最後まで、わたしの話を、黙って聞いてくれました。

そして、こう答えました。

「浮気は、してない。本当だ」

それから、夫は、ひとつずつ、わたしの「疑い」に、答えていきました。

  • シャンプー: 「ゴルフ場のシャワーで、コンペで配ってるシャンプーを使ったかも」
  • 出かける時間: 「最近、ゴルフのスケジュールが変わって、図書館の時間もずれた」
  • スマホの置き場所: 「特に意識してない。たぶん、たまたま」
  • お小遣いの5万円: 「ゴルフ用品を買い替えた。お前に言うのを忘れてた」
  • 服装: 「お前が前に『もう少しおしゃれしてもいいのに』って言ったから、ちょっと意識した」

「ごめんな、お前に、そんなに心配かけて」

夫は、深々と、頭を下げてくれました。

わたしは、しばらく、何も言えませんでした。

ぜんぶ、わたしの考えすぎだった。

ですが、夫を疑ってしまった3ヶ月の、申し訳なさが、胸にこみ上げました。

それから1ヶ月、わたしと夫が変えたこと

その夜から、わたしと夫は、いくつか、お互いの行動を、少しだけ変えました。

ひとつめ、お金の出入りを、お互いに、もう少し共有する。 夫が大きな買い物をするときは、事前にひと言、わたしに伝えてもらう。 わたしも、大きな買い物のときは、夫に伝える。

ふたつめ、出かける予定を、軽く共有する。 スケジュールを細かく報告するのではなく、「今日はゴルフ、夕方戻る」程度の軽い共有。

みっつめ、お互いに「疑い」が生まれたら、24時間以内に話す。 3ヶ月も抱え込まずに、軽いうちに、話す。

この3つを、決めました。

それから1年半、わたしの中の「疑い」は、生まれていません。

夫も、わたしに何かを聞きたい時は、すぐに、聞いてくれます。

「疑い」は、夫婦の信号

65歳の今、振り返って、わたしが思うのは、こうです。

「疑い」は、悪いものではなく、夫婦の関係が、ちゃんと整っていないサインなのです。

わたしと夫の関係は、定年退職後、なんとなく、空気感が変わっていました。

夫が家にずっといること。 わたしの生活リズムが変わったこと。 お互いに、相手の小さな変化を、見すぎていたこと。

そういう「定年後の不安定さ」が、わたしの「疑い」の、本当の原因でした。

夫の浮気を疑っていたわけでは、本当はなく、夫との新しい関係が、まだ、整っていなかった、ということでした。

それを、ちゃんと夫に話して、関係を整え直す。 これが、わたしと夫の、3ヶ月の苦しみの、本当の出口でした。

同じ疑いを持っている方へ

もし、いま、ご主人の浮気を疑っている方がいらっしゃるなら、申し上げたいことがあります。

ひとりで、3ヶ月以上、抱え込まないでください。

母から教わった通り、「夫に、まっすぐ聞く」のが、いちばん早いです。

聞くのは、勇気がいります。 ですが、聞かないで眠れない夜を続けるほうが、本当はもっと、つらいのです。

聞いてみて、本当に浮気だったら、その時に、動けばいい。 聞いてみて、わたしのように「勘違いでした」なら、夫婦の関係を、もう一度、整え直すきっかけになります。

どちらに転んでも、いまの「疑いを抱えたまま」よりは、ずっと、マシです。

母が、わたしの背中を押してくれたように、わたしも、いま疑いを持っている同じ年代の方の、背中を押したいです。

3ヶ月、わたしが苦しんだあの夜を、もうひとりでも減らせれば、と思って、書きました。

なお、ご家庭の状況によっては、ご夫婦だけで話すのが難しいケースもあります。深刻な状況の場合は、夫婦カウンセリングや、信頼できる第三者(親、兄弟、弁護士など)への相談も、ご検討ください。

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