卒婚とは?60代夫婦の3つの実例と、わたしの選び方
『卒婚』は、離婚せず結婚を続けながら、お互いの生活を独立させる夫婦のあり方です。65歳のわたしの周りで、卒婚を選んだ3組の夫婦のかたちと、それぞれの理由、わたし自身が『普通の夫婦』と『卒婚』のあいだで考えていることをお伝えします。
「卒婚」という言葉を、初めて聞いたのは、5年ほど前でした。
新聞のコラムに、こうありました。 「離婚せずに結婚を続けながら、お互いの生活を独立させる、新しい夫婦のかたち」
最初、わたしは「離婚と何が違うんだろう」と思いました。
ですが、その後、わたしの周りで、卒婚を選ぶ60代夫婦が、ぽつりぽつりと、出てきました。
3組、わたしの近くで、卒婚を選んだ夫婦がいます。
それぞれ、形がぜんぶ違って、選んだ理由も違いました。
65歳のわたしが、その3組を見て、考えたことを、お伝えします。
お断り:「卒婚」は法律上の制度ではありません。明確な定義もありません。この記事は、わたしの周りの3組のケースと、わたし自身の体験をもとにした内容です。
卒婚とは(60代向けに簡単に)
「卒婚」という言葉は、もともと作家の杉山由美子さんの本のなかで提唱された、と聞いています。
ごく簡単に言うと、こんな感じです。
- 離婚はしない(法律上の婚姻関係は続ける)
- 同居か別居かは、夫婦で決める
- 家計は、別々にする場合が多い
- お互いの自由を尊重し、相手の生活には干渉しない
- 「卒業」のように、結婚という枠から、お互いに少し離れる
「離婚」は法律上の手続きで、戸籍が変わります。 「卒婚」は、夫婦で取り決める、生活のスタイルです。
公的に整備された制度ではないので、人によって、家によって、内容はかなり違います。
実例① 同じ家に住む卒婚(60代の友人Aさん夫妻)
最初に卒婚を選んだのが、わたしの友人Aさん(65歳)夫妻でした。
3年前、Aさんとご主人(67歳)は、同じ家に住みながら、生活をほぼ独立させました。
ふたりの生活は、こんな感じです。
- 同じ家(2階建ての一軒家)に住む
- Aさんは1階、ご主人は2階の書斎で寝起き
- 朝食と夕食は、それぞれ別々に用意して食べる
- 月に1回、ふたりで外食する
- 家計は別々(光熱費は折半、それ以外はそれぞれ自分の口座から)
- お互いの外出に、相手は干渉しない
Aさんがこの形を選んだ理由を、聞いたことがあります。
「同じ屋根の下で過ごしてるのに、ストレスがゼロになるのよ。お互いの生活を見ない、口出ししない、それだけで、本当に楽になった」
Aさんは、ご主人が現役だった頃から、ご主人の細かい指摘がストレスでした。 「醤油はそこじゃない」「電気消して」「冷蔵庫の中、片付けて」、毎日の小さな指摘が、Aさんを少しずつ削っていたのです。
定年後、24時間その指摘の中にいるのが耐えられなくなり、卒婚を提案したそうです。
ご主人は、最初は反対したそうですが、3ヶ月で慣れて、今は「これが楽でいい」と言っているそうです。
費用がかからない卒婚のかたちです。
実例② 週末だけ同居の卒婚(60代の親戚Bさん夫妻)
ふたつめは、わたしの親戚にあたるBさん(68歳)とそのご主人(70歳)です。
Bさん夫妻は、5年前から、こんな生活をしています。
- 平日は、それぞれが別の場所に住む
- ご主人は、夫婦で買った都心のマンション
- Bさんは、ご主人の母から相続した、地方の一軒家
- 週末(金曜の夜から日曜の夜)、ご主人がBさんの家に来る
- 週末は、ふたりで料理を作って、食事して、近所を散歩する
- 月曜の朝、ご主人は都心に戻る
費用面では、もともと2つの不動産があったから可能になった形です。 新しく家を借りるとお金がかかるので、これは誰でも真似できる形ではないかもしれません。
Bさんが、このかたちを選んだ理由は、こうでした。
「夫といると、しんどい時間がどうしてもあるの。でも、夫が嫌いというわけじゃない。週末だけ一緒に過ごすと、また会えるのが楽しみになる。ちょっと、つき合い始めの頃に戻った気分」
5年続いている、と聞いています。
このかたちのいいところは、「定期的に会う日がある」ことだそうです。 完全に別居だと、関係が薄れていく恐れがあります。 週末だけ会うかたちは、夫婦の関係を保ちながら、平日の自由を確保できる。
実例③ 完全別居の卒婚(60代の元同僚Cさん夫妻)
3つめは、わたしの元同僚Cさん(63歳)です。
Cさん夫妻は、2年前から、完全別居の卒婚をしています。
- Cさんは、首都圏の小さな賃貸マンション(月7万円)
- ご主人は、夫婦で住んでいた一軒家(同じ首都圏内、車で30分)
- 平日も週末も、別々に過ごす
- 月に1回、外食で会う(その時のお会計はご主人持ち)
- 家計は完全に別(Cさんは自分の年金で生活、ご主人は持ち家)
- 葬儀や法事など、家族としての立場が必要な場面では、一緒に行動する
Cさんがこの形を選んだ理由を、聞きました。
「離婚も、何度も考えた。でも、ふたりの長男のお嫁さんが妊娠中で、長男から『離婚はしないでほしい』と言われたの。それで、卒婚にしたのよ」
Cさんは、自分の老親の介護が落ち着いたあと、自分の人生をもう一度組み立て直したかった、と言っていました。
ご主人と暮らしていると、それができないと感じていた、と。
完全別居の卒婚は、家賃が二重にかかるので、金銭的なゆとりが必要です。 Cさんは、自分の現役時代の貯金で、家賃の半年分を払ってから、別居を始めたそうです。
3組に共通する、卒婚を選んだ理由
3組のケースを聞いて、わたしが気づいたのは、「卒婚を選んだ理由」に共通点があることでした。
ひとつめ、相手を「嫌い」ではないけれど、「24時間一緒は無理」と感じていた。 3組とも、相手のことを尊重していました。憎しみや怒りで動いていたわけではなく、ただ「一緒の時間が長すぎる」が、つらかったのです。
ふたつめ、離婚の決断ができない、または、したくない理由があった。 子どもへの影響、家族への面目、金銭的な不安、宗教的な背景、いろいろな理由で、離婚は選びませんでした。
みっつめ、夫婦のどちらかが、強く「自分の時間がほしい」と感じていた。 60代になって、これからの15年、20年を、自分のために使いたい、という気持ちが、卒婚の入り口になっていました。
これは、わたし自身も、3年前に熟年離婚を考えたときの気持ちと、重なる部分があります。
卒婚の「いい点」と「気をつける点」
3組を見ていて、卒婚の「いい点」と「気をつける点」が、わかってきました。
いい点
ひとつめ、関係を完全に切らずに、距離だけ取れる。 離婚すると、相続権や、社会的な立場(配偶者控除など)が変わります。卒婚なら、法律上は配偶者のままなので、それらは維持されます。
ふたつめ、年金や保険の手続きが、変わらない。 離婚なら年金分割の手続きが必要になります。卒婚なら、それらは現状維持です。
みっつめ、家族や親戚への説明が、シンプル。 「離婚しました」より、「卒婚しました」のほうが、相手の家族や親戚から、受け入れられやすい場合があります(地域によって受け止めは違います)。
気をつける点
ひとつめ、相手の同意が、必須。 卒婚は、夫婦の合意で成り立ちます。片方が嫌がっている卒婚は、ただの別居問題になります。
ふたつめ、お金の取り決めを、しっかり書面で。 卒婚を始めるとき、家計、家賃の負担、医療費、葬儀代、相続のことなど、お金のルールを、必ず書面で交わしてください。口約束だと、後で揉めます。
みっつめ、相手が病気になったとき、誰が世話をするか、事前に決めておく。 卒婚していても、配偶者には世話の義務があります。同居していない場合、緊急時に誰が動くか、子どもや親戚も含めて、最初に決めておくと安心です。
わたし自身は、いまのところ卒婚を選ばない
65歳のわたしと、66歳の夫は、いまのところ、卒婚を選んでいません。
理由は、ふたつです。
ひとつめ、3年前に熟年離婚を考えたとき、夫と話し合って、関係を作り直せたから。 あの話し合いがなかったら、わたしも卒婚を選んでいたかもしれません。話し合いで、ある程度の関係が戻ったので、いまは、普通の夫婦のかたちを続けています。
ふたつめ、お金の面で、卒婚はわたしにはきついから。 家賃が二重にかかる完全別居や、週末同居の卒婚は、わたしの年金では難しいです。同じ家での卒婚なら可能ですが、夫がそれを望んでいないので、いまは選んでいません。
ただし、これからの15年、20年で、また状況は変わるかもしれません。
夫婦のかたちは、一度決めたら、ずっと同じ、ではないと思っています。
卒婚を考えている方への、3つのおすすめ
もし、いま、卒婚を考えている方がいらっしゃるなら、3つだけ、お伝えしたいことがあります。
ひとつめ、夫婦で「卒婚って何か」を、いっしょに調べる時間を持ってください。 本も、何冊か出ています。いきなり「卒婚したい」と切り出さず、「卒婚っていう形があるらしいよ」から、ふたりで読んでみる、と入ると、入り口が柔らかくなります。
ふたつめ、いきなり完全卒婚ではなく、「お試し期間」を設けてください。 たとえば、半年だけ、ご主人が書斎で寝起き、お互いの食事は別、家計だけは別、というふうに、徐々に試してみる。半年経って、お互いに「これでよかった」と感じたら、本格的に始める。これが、リスクが少ないやり方です。
みっつめ、お金のことは、必ず専門家に相談してください。 弁護士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなどに、自分のケースを話して、「卒婚にした場合の、お金の影響」を試算してもらう。これを最初にやっておくと、後悔が少ないです。
さいごに
卒婚は、離婚と普通の結婚の、ちょうど真ん中にある選択肢です。
すべての夫婦に合うものでは、ありません。 ですが、わたしの周りの3組は、それぞれの理由で、卒婚を選んで、よかった、と言っています。
「結婚を続けるか」「離婚するか」の2択で苦しんでいる方には、もうひとつの選択肢として、卒婚があることを、知っておいてほしいです。
ただし、お金の取り決め、相手の合意、家族への説明など、決めることはたくさんあります。 必ず、ご自分の状況に詳しい専門家に相談しながら、進めてください。
なお、卒婚に関する法律的な保護や制度は、現時点では明確に整備されていません。財産、年金、税制への影響は、ご家庭ごとに大きく異なりますので、ファイナンシャルプランナーや弁護士などの専門家に、必ずご相談のうえで、進めてください。
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