ヨバナシ —女たちの秘密会議
コラム

= COLUMN =

熟年離婚を真剣に考えて、3年かけてやめた話

ヨバナシ編集部 読了 約6分

60歳のとき、わたしは本気で熟年離婚を考えました。離婚相談所に2回行き、年金分割の試算もしました。それから3年。わたしはいま、夫と同じ家で暮らしています。離婚を決めなかった理由と、その代わりに3年で夫婦の何を変えたか、63歳のいま、振り返って書きます。

60歳のとき、わたしは本気で熟年離婚を考えました。

35年連れ添った夫との生活が、これから20年、25年と続くと思うと、息が詰まる気がしたのです。

夫が悪い人だったわけでは、ありません。 DVもなければ、浮気もなかった。 お金にもまじめで、定年退職金もちゃんと残してくれていた。

でも、夫と一緒の食卓に座ると、わたしは、いつも、心がしぼむのです。

それから3年。

わたしはいま、63歳。 そして、夫と同じ家で、暮らしています。

離婚は、しませんでした。

この3年で、わたしは何を考えて、何をやって、なぜ離婚をしなかったか。

同じように熟年離婚を考えている方に、ひとつの記録としてお伝えします。

60歳、わたしが熟年離婚を考えた理由

60歳のわたしが、熟年離婚を考えた理由を、正直に書きます。

ひとつめは、夫の「無言」がつらかったこと。 夫は、もともと無口な人です。それは結婚前から知っていました。ですが、子どもが独立してから、家のなかで夫と私の二人きりになった時間が増え、夫の「無言」が、本当に重く感じるようになりました。

ふたつめは、夫が家事を「ぜんぜん」やらなかったこと。 わたしも仕事(パート)をしていて、家事も全部わたしでした。「やってよ」と言うのに、勇気がいる夫でした。

みっつめは、わたしの「これからの20年」が見えなかったこと。 60歳。あと20年か、25年は、生きるかもしれない。その時間を、ぜんぶ、いまの夫と過ごす、と考えると、ふいに、息が詰まりました。

夫を嫌いになったわけではないのです。 ただ、「夫と一緒の未来」が、わたしには想像できなかった。

離婚相談所に行った2回

考えだけで終わらず、わたしは離婚相談所に、2回行きました。

1回目は、駅前の弁護士事務所が運営する離婚相談所。 2回目は、女性専門の離婚カウンセリング。

両方とも、初回相談は無料で、1時間ほど話を聞いてくれました。

そこで、わたしは、はっきり知りました。

熟年離婚は、お金の面では、思っていたよりずっと「現実的」だということ。

公的な情報源には、こう書かれています。

婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を、当事者間で分割することができる制度(合意分割又は3号分割)

日本年金機構「離婚時の年金分割」

年金分割は、ちゃんと、わたしの権利として、認められていました。

夫のサラリーマン時代の厚生年金の半分を、わたしも受け取れる試算でした。

これに、わたしの分のパート時代の年金を足すと、月10万円弱。

家賃の安いアパートで、ひとり暮らしをするなら、生きていける金額でした。

数字の面では、離婚は、可能でした。

3つの「もう一度考えた」

ただ、相談所からの帰り道、わたしは、3つのことを「もう一度考えました」。

ひとつめ、夫と離れたい理由は、本当に「離婚」なのか? わたしが息が詰まるのは、「夫と一緒にいる時間が長すぎる」からかもしれない。 それなら、「離婚」ではなく、「一緒にいる時間を減らす工夫」でも、解決するかもしれない。

ふたつめ、月10万円のひとり暮らしは、いまの何より「自由」と言えるのか? 家賃、光熱費、食費、医療費、すべてを月10万円でやりくりするのは、相当きつい。 お金の心配がない自由と、夫と離れた孤独な自由、どちらが、わたしの本当の幸せか。

みっつめ、夫はわたしが本当に離婚を考えていることを、知っているのか? わたしは、自分で考えて、自分で相談所に行って、自分で結論を出そうとしていた。 夫には、何も話していなかった。 もしかしたら、話してみると、夫の側からの何か答えがあるかもしれない。

この3つを、わたしは2週間、夜のお風呂で、毎晩考えました。

夫に「離婚を考えていた」と伝えた夜

考え抜いた末、わたしは、夫に伝えました。

ある日曜日の夜、夕食のあと、お茶を入れて、こう切り出しました。

「あなた、わたし、最近、本当は離婚を考えていたの」

夫は、お茶のカップを置いて、しばらく、わたしの顔を見ていました。

そして、こう言いました。

「うん、なんとなくは、感じてた」

え、と、わたしは驚きました。

夫は、わたしの様子を、ちゃんと見ていたのです。

「なんで、言ってくれなかったんだ」

夫は、それから1時間、わたしの話を聞いてくれました。

35年連れ添って、夫がわたしの話を1時間聞いてくれたのは、たぶん、初めてでした。

わたしと夫が、その夜に決めた「3つの実験」

その夜、わたしと夫で、3つの「実験」を始める、と決めました。

ひとつめ、夫が、家事を3つ、必ず引き受ける。 具体的には、毎朝のゴミ出し、週末の洗濯物の取り込み、月1回の冷蔵庫の掃除。これだけです。

ふたつめ、わたしが、月に2日、家を出る。 土曜の朝に家を出て、日曜の夜に帰ってくる。実家(母のところ)に泊まる、女友達と温泉に行く、ひとりでビジネスホテルに泊まる、何でもいい。「ひとりで過ごす時間」を、月に2日、確保する。

みっつめ、毎週日曜の夜、夫婦で30分、話す時間を持つ。 何を話してもいい。1週間の出来事、最近気になっていること、相手にお願いしたいこと。ただ、月1回は「相手にちょっと不満なところ」を、必ずひとつだけ言う。

この3つを、半年続けてみる。 半年経って、わたしがまだ離婚したい、と思っていたら、その時はもう一度ちゃんと話し合う。

そう約束しました。

半年後、わたしの気持ち

半年後、わたしの気持ちは、はっきり変わっていました。

「離婚したい」と、思わなくなっていたのです。

何が、変えたのか。

ひとつめは、夫が家事を3つだけでもやってくれたこと。 特に「ゴミ出しを夫がやる」は、わたしの中で大きな変化でした。「ゴミ出しを忘れない夫」を見るたびに、夫が「わたしに頼まれた約束を、守ってくれている」のを感じました。

ふたつめは、月に2日の「ひとりの時間」が、思った以上に効いたこと。 月に2日だけでも、家を出てひとりで過ごす時間があると、それ以外の28日が、ぐっと耐えやすくなりました。「逃げ場がある」と分かるだけで、心の重さが半分以下になりました。

みっつめは、日曜の夜30分の話し合いが、35年で初めて「夫と本音で話す時間」になったこと。 最初の3週間は、お互いに何を話していいか分からず、沈黙が多かったです。1ヶ月過ぎたあたりから、自然と話せるようになりました。3ヶ月過ぎた頃には、夫が「俺、最近こんなこと考えてるんだけど」と、自分から話してくれるようになりました。

35年の重さは、半年で完全に消えたわけでは、ありません。 ですが、半年で「離婚を考えるほどの息苦しさ」は、消えたのです。

3年経って、わたしと夫の「いま」

それから3年。

わたしは63歳、夫は66歳になりました。

3つの実験は、いまも続いています。

夫の家事は、3つから5つに増えました(夫が自分で増やしました)。 わたしの「ひとり時間」は、月2日のまま、続いています。 日曜の30分の話し合いは、いまも、毎週、続いています。

そして、わたしと夫は、いま、35年の中で、いちばん近い距離にいる、と感じます。

「ラブラブの夫婦」というわけでは、ありません。 若い頃のような恋愛感情も、ありません。

ただ、「相手のことを、知っている」「相手のことを、尊重している」、その関係が、35年で初めて、わたしと夫の間にできたのです。

「熟年離婚を考えた」ことが、変えてくれたもの

3年経って、わたしが思うのは、こうです。

「熟年離婚を真剣に考えた」ことが、わたしの結婚生活を、最終的に救ってくれた。

考えなかったら、わたしは、夫に何も言わずに、不満を抱えたまま、20年を過ごしていました。

考えたから、相談所に行き、年金を試算し、夫に話す勇気が出ました。

考えたから、夫もわたしも「やり直す」という選択肢を、真剣に検討できたのです。

「熟年離婚を考える」のは、悪いことでは、ありません。 むしろ、夫婦の関係を、最後にもう一度、本気で考え直すきっかけになるのです。

いま、熟年離婚を考えている方へ

もし、いま、熟年離婚を真剣に考えている方がいらっしゃるなら、申し上げたいことが、3つあります。

ひとつめ、考えることは、止めなくていいです。 真剣に考える、相談所に行く、年金を試算する、これは全部、悪いことではありません。

ふたつめ、夫に「考えていること」を、伝えてみてください。 夫の反応で、夫婦の未来が見えます。話さない夫、向き合わない夫、話し合いを拒否する夫なら、離婚は正しい選択かもしれません。話を聞いてくれる夫、変わろうとする夫なら、3年で関係が変わる可能性が、十分にあります。

みっつめ、いきなり離婚を決めず、半年だけ「実験期間」を取ってみてください。 わたしのように、夫に3つだけ家事を頼む、自分が月2日ひとりになる、週1回30分話す、こういう小さな実験を半年。それでも変わらなければ、その時に離婚を決めても、遅くはありません。

熟年離婚を考えるあなたの気持ちは、本物です。 ですが、その先に、もしかしたら「離婚せずに、夫婦をやり直す」という道も、あるかもしれません。

両方を、ちゃんと、考えてみてほしいのです。

3年前のわたしのように。

なお、年金分割や離婚の手続き、財産分与については、地域や個別の状況によって大きく異なります。実際の手続きは、必ず弁護士、社会保険労務士、または法テラスなど専門の方にご相談ください。

= 関連する夜話 =